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属人的営業が、チームの成長を止めている
サントリー43年の現場から学んだ、自律自走する組織のつくり方
少し、聞いてもらえますか。
「佐藤さんが休むと、途端に売上が落ちる」 「今月も田中さんのおかげで目標達成できました」
こんな会話が、あなたの職場でも日常的に交わされていませんか?
私はサントリーで43年間、営業の現場を歩き続けました。仙台、京都、神戸——場所も環境も違う複数の支店で、売上を立て直してきた経験があります。
そこで見えてきた厳しい現実があります。
特定の人材に依存した営業組織は、その人材が異動・退職した瞬間に、売上と顧客関係を同時に失うリスクを抱えている。
しかし同時に、こうも確信しました。
正しい仕組みさえ構築すれば、どんなチームでも自律的に動くようになる。
これは精神論でも理想論でもありません。私が現場で何度も検証し、実際に成果として確認してきた事実です。
今日は、属人的営業から脱却するための3つのステップをお伝えします。
その前に、根本的な問いを一つ
目標未達成のとき、あなたはメンバーにどんな言葉をかけていますか?
「気合いが足りない」「訪問回数を増やせ」「今月は気合いで乗り切ろう」——
もしこういった言葉が口をついて出るなら、少しだけ立ち止まって考えてみてください。
私も若い頃、同じことをやっていました。しかしある時期から、はっきりと気づいたのです。
売れないのは、努力が足りないからではない。仕組みがないからだ。
根性論には、構造的な問題を見えなくするという副作用があります。「頑張れ」と言い続けることで、本来解決すべき組織の課題が先送りされ、優秀なメンバーほど疲弊して離れていく。
営業組織が抱える問題の多くは、個人の能力差ではなく、組織の構造的欠陥に起因しています。だからこそ、解決策も構造レベルで考える必要があるのです。
ステップ1:目標を「上からの数字」から「自分ごと」に変える
なぜこれが重要か
属人的な組織の最初のサインは、メンバーが目標を「本社から降りてくる数字」としか捉えていないことです。
「本社からの指示なので、とにかくやってください」 「今月の目標は前年同月比110%です」
この状態では、メンバーは受動的になります。数字は頭に入っていても、心には入っていない。困難に直面したとき、粘り強さも創意工夫も生まれてきません。
私が現場でやっていたこと
目標を「渡す」のではなく、一緒に「分解する」ことを徹底していました。
たとえば「今月1000万円の売上目標」があるとします。私はこれをそのまま伝えません。
「既存顧客からの継続受注で500万円、新規開拓で300万円、商品リニューアルによる単価アップで200万円——あなたの担当エリアと顧客基盤で、どの部分をどう伸ばせるか、一緒に考えよう」
この対話を通じて、メンバーが自分の言葉で、自分なりの作戦を描ける状態を作ることが目的です。
そうなったとき、その数字はもう「やらされる目標」ではなく「自分が責任を持つ目標」に変わっています。
現れる変化
目標の内面化が進んだチームでは、行動の質と量の両方が変わります。「言われたからやる」という姿勢から「自分が責任を持つ」という当事者意識への転換が、最終的に成約率と売上の両方に明確に表れてきます。
ステップ2:「頑張ります」で終わる会議をなくす
なぜこれが重要か
多くの組織でPDCAが形骸化しています。週次・月次のミーティングが単なる進捗報告に終始し、「今月は運が悪かった」「来月は頑張ります」という言葉で締めくくられる。
この状況が続く限り、同じ失敗が繰り返されます。個人の経験が組織の知恵として蓄積されず、毎回ゼロから試行錯誤を繰り返すことになるのです。
私が現場でやっていたこと
私が会議で徹底していたのは、「頑張ります」の一言で終わらせないことでした。
代わりに、こう問いかけ続けました。
- 「なぜその顧客にアプローチしたのか?根拠は何か?」
- 「過去の類似事例では、何が成功要因だったのか?」
- 「うまくいかなかった本質的な理由は、自分ではどう思う?」
- 「次回同じ場面になったら、どう対応するか?」
責めているんじゃありません。一緒に考えているんです。
この姿勢が大切で、「君の考えは甘い」と指摘するのではなく、「この点についてはどう思うか?」と問いかける。メンバー自身に気づきを促すことが目的です。
この問いかけを続けていくと、メンバーが少しずつ「なんとなく動く」から「根拠を持って動く」に変わっていきます。根拠を持った行動は再現できます。再現できる行動が積み重なると、それがチーム全体の財産になっていくのです。
現れる変化
適切な情報共有の仕組みにより、個人の能力を組織全体で活かせるようになります。「1+1=2」の単純な足し算でしか成果を積み上げられなかった組織が、「1+1=3、4」という相乗効果を生み出せるようになります。
ステップ3:「任せる仕組み」を段階的に構築する
なぜこれが重要か
「もっと自分で考えて動いてほしい」——そう思いながら、気づけば細かく指示を出してしまう。
この状況では、メンバーは「考える」ことをやめ、「指示を待つ」ことが習慣になっていきます。上司は細かい判断に追われて本来の戦略業務に集中できず、組織全体の生産性が低下する——この悪循環が属人化をさらに固定化させます。
チームが自律的に動かない本質的な原因は、**「メンバーが任されていない」**という構造的問題にあるのです。
私が現場でやっていたこと
神戸でRTDのブランドマネジャー業務を担当者に一任したときの話をしましょう。
私が実践したのは、段階的な権限移譲です。
第1段階(1ヶ月目)——まず一緒に歩く 毎日30分の進捗確認から始めました。重要な判断は必ず事前相談を義務づけ、主要顧客への同行訪問も週2回行いました。この段階で与えた権限は「月額5万円以下の販促費執行」のみです。
第2段階(2〜3ヶ月目)——少しずつ手を離す 進捗確認を週2回に減らし、一定範囲での独自判断を認め始めました。権限も「月額20万円以下の販促費」と「新規企画の立案」まで広げていきました。
第3段階(4〜6ヶ月目)——背中を見守る 月1回の定期報告だけになりました。担当者は自分で考え、判断し、エリア戦略を自ら立案・実行するようになっていました。
大切なのは、丸投げではなく段階的に渡すことです。困ったときにいつでも相談できる、失敗しても責められない——この安心感があって初めて、人は思い切って動けるようになります。
実施にあたっての3原則
- 目標は明確に、手段はメンバーに委ねる
- 失敗は責めず、学習の機会として活かす
- 任せながらも、孤立させない
現れる変化
この取り組みを実践したチームでは、売上が前年比25〜30%向上しただけでなく、メンバーの自主的な改善提案が大幅に増加しました。しかし数字以上に大きかった変化は、メンバーが「自分の仕事」として営業活動に取り組むようになったことです。
まとめ:「気づいたら達成していた」組織をつくる
私がサントリーで全国No.1になった瞬間、実はあまりよく覚えていないんです。
ガッツポーズをした記憶も、みんなで大喜びした場面も、はっきりとはない。
なぜかというと、それが「私の成果」ではなかったから。チームのメンバー一人ひとりが自ら考え、動き、積み上げた結果が、気づいたら達成につながっていた——そういう感覚なんです。
これが「自律自走する組織」の本当の姿です。
3つのステップを改めて整理します。
| ステップ | 変革のポイント | 期待される変化 |
|---|---|---|
| 1. 目標の自分化 | 数字を分解し、対話で内面化させる | 当事者意識と行動量の向上 |
| 2. 根拠ある計画 | 「頑張ります」をデータと分析に変える | 再現性のある営業活動の定着 |
| 3. 段階的権限委譲 | 任せる仕組みを丁寧に広げていく | 自律的な判断力と主体性の育成 |
構造改革は一朝一夕には実現しません。しかし、正しい方向への小さな一歩を積み重ねることで、必ず組織は変わります。
まずは今日、自分のチームの「当たり前」をひとつだけ見直してみてください。
そこから、すべては始まります。
本記事の内容は、拙著「絶対に予算達成するルート営業の仕組み化」により詳しく掲載しています。

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