「最近の若い子は、何を考えているのかわからない」
「丁寧に教えているつもりなのに、なぜか育たない」
「自分が若い頃はもっと必死だったのに——」
こんな言葉が、あなたの頭をよぎったことはありませんか。
結論から言います。部下が育たないのは、あなたのせいではありません。
ただし、育てる仕組みがないことの問題です。
私はサントリーで43年間、営業の現場を歩き続けました。仙台、京都、神戸——赴任するたびに「育っていない」チームを引き継ぎ、そのたびに同じ確信を深めてきました。人が育たない根本原因は、個人の能力でも、やる気でも、時代のせいでもない。育てる仕組みがないからです。
目次
「熱心に教える」ほど、部下が育たなくなる
私が仙台に赴任したとき、前任のマネージャーは非常に熱心な方でした。毎日メンバーに細かく指示を出し、同行訪問では自ら手本を見せ、会議では正解を教え続けていた。
ところがそのチームは、機能していませんでした。マネージャーがいないと動けない。指示を待つことが習慣になっている。自分で考える力が育っていない。
熱心に教えるほど、部下は「答えをもらう側」になっていきます。これが育成の最大の落とし穴です。
教えることと、育てることは、まったく別のことです。
「育つ仕組み」がない組織の3つの特徴
私がこれまで見てきた「部下が育たない組織」には、共通する3つの特徴があります。
① 答えを渡しすぎている
「こうしなさい」「これが正解だ」——指示が多いほど、メンバーは考えることをやめます。自分で判断する機会がなければ、判断力は育ちません。
② 任せる基準が曖昧
「まだ早い」「もう少し様子を見てから」——いつまでも任せない組織では、メンバーは責任感を持てません。任されない仕事に、本気にはなれないのです。
③ 失敗を振り返る場がない
人は失敗しただけでは育ちません。「なぜそうなったのか」「次はどうするのか」を自分の言葉で語れたとき、初めて成長につながります。振り返りの場がなければ、失敗は失敗のまま終わります。
私が現場で実践した「育つ仕組み」
京都支店に赴任したとき、私が担当したのは経験の浅い若手中心のチームでした。全国ダントツの最下位。前年割れが続いている。誰もがお手上げ状態の部署です。
私がまずやったことは、「教える」ことをやめることでした。
代わりに始めたのが、毎週の個別面談です。ただし、この面談で私が答えを教えることは一切しませんでした。ひたすら問いかけるだけです。
「今週一番手応えを感じた場面はどこだった?」
「あの得意先との商談、うまくいかなかった本当の理由は何だと思う?」
「次に同じ場面になったら、どう動く?」
最初はうまく答えられないメンバーがほとんどでした。しかし週を重ねるごとに、自分の言葉で語れるようになっていく。そして語れるようになると、行動が変わり始める。
問いかけが、考える習慣をつくります。考える習慣が、自走する力をつくります。
「任せる仕組み」が自走を生む
もう一つ私が徹底したのが、段階的な権限委譲です。
仙台では、販促費の投入判断をメンバーに委ねました。「この得意先にいくら使うか」を自分で考え、自分で決める。製品ごとの利益を明らかにし、その利益から販促費を差し引いた額を最大化することを目標にしました。
最初は戸惑うメンバーがほとんどです。これまで「上司に言われた通り動く」ことが仕事だったのに、急に「自分で考えろ」と言われても困る——その気持ちはよくわかります。
だからこそ、段階的に渡すことが大切です。
最初は小さな判断から任せる。失敗しても責めずに「次どうする?」と問いかける。うまくいったら「なぜうまくいったのか」を一緒に考える。このサイクルを繰り返すうちに、メンバーは「自分で考えて動くこと」が当たり前になっていきます。
結果として仙台のチームは、それぞれが相手に応じた販促費の投入をするようになり、チームが活性化し、自立自走する集団へと変わっていきました。
「育成」を仕組みにすると、何が変わるか
育成を「仕組み」にするとはどういうことか。それは、マネージャーの個性や気分に左右されない、誰がやっても同じ結果が出るプロセスをつくることです。
具体的には次の3つです。
① 個性の把握と役割設計
1人ひとりの強み・弱み・価値観を丁寧に把握し、その人に合った任せ方を設計する。画一的な指導ではなく、個別最適の育て方をする。
② 段階的権限委譲のルール化
「いつ・何を・どこまで任せるか」を明確にする。任せるタイミングの基準をつくることで、マネージャーの迷いがなくなり、メンバーも成長の見通しが持てる。
③ 振り返りの場の定期化
週1回の個別面談、月1回のチーム振り返り——「問いかける場」を定期的に設けることで、考える習慣が組織に根付いていく。
この3つを仕組みとして日常に組み込むことで、特別な才能がなくても、どのマネージャーでも部下を育てられるようになります。
私が常々伝えたいこと
研修を実施しても現場が変わらない、OJTをやっているつもりなのに部下が育たない——そんな声を、経営者や管理職の方からよく耳にします。
その多くに共通しているのは、育成が「熱心な個人の関わり」に頼っていて、仕組みになっていないことです。熱意があっても、仕組みがなければ再現できません。担当者が変われば、また元に戻ってしまいます。
私が43年間の現場で学んだのは、「育成は仕組みにできる」ということです。個性の把握、段階的な権限委譲、振り返りの習慣——この3つを組織の日常に組み込むことで、特別な才能がなくても、誰もが部下を育てられるようになります。
全国最下位だったチームを3度、全国No.1に変えた経験から、確信を持って言えます。仕組みさえ整えば、どんなチームでも必ず変わります。
まとめ
部下が育たないのは、あなたのせいではありません。育てる仕組みがないことの問題です。
答えを渡すのをやめ、問いかける習慣をつくる。任せる基準を明確にし、段階的に権限を渡す。振り返りの場を定期的に設ける。この3つを仕組みとして組み込むだけで、チームは変わり始めます。
私がサントリーの現場で学んだ最大の教訓は、これです。
「リーダーの仕事は、自分の仕事をなくすことだ」
メンバーが自走すればするほど、リーダーが指示を出す必要はなくなります。それが、育成の仕組みが完成した姿です。
本記事の内容は、拙著「絶対に予算達成するルート営業の仕組み化」により詳しく掲載しています。
Sales Spark 代表 浅井清司

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